取材後記:テーマは「相続トラブル」「親族問題」「孤独な老人」

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取材記事のなかにも登場しているような、親族との関係がもともと緊迫状態にあるような孤独な老人が増えているようです。

トラブルが絶えない人生を送った老人の末路

誰にでも起こりうる、相続トラブル。事前に親族間での話し合いが十分になされていれば、問題も最小におさめることが可能ですが、トラブルになっている人のなかには、離婚や再婚を繰り返したり、家庭内が穏やかでないケースが多い様子。今回は取材のなかに登場した「近づいてきた人に”なにかあれば助けてあげる”などと甘い言葉をかけられた孤独な老人が、親族に黙って不動産の持分を贈与していたという状況に出くわした人」からうかがった、ある孤独な老人に関する体験談をご紹介したいと思います。

◆自身の浮気が原因で離婚。親権をとられ、実家に戻ると…

職場恋愛で同僚の女性と結婚したKさん。翌年、長女を授かりますが、自身が大学時代に付き合っていた恋人・Y子さんとの浮気が発覚し、結婚生活は4年で幕を閉じます。親権は妻側にとられ、一人ぼっちになったKさんは実家へ戻ることに。

すでに定年退職をして隠居していた両親は、長男夫婦と同居しており、Kさんは長男夫婦と両親の二世帯住宅に居候するようになりました。

◆再婚と両親の介護。またしても離婚を繰り返してしまう

Kさんは離婚の原因となった大学時代の恋人・Y子さんと再婚を果たします。2番目の奥さんになったY子さんは、ケアワーカーの資格も持っており、両親の介護を請け負いたいという理由で同居を開始します。

やがて、Y子さんと長男夫婦のあいだでトラブルが絶えなくなり、長男夫婦は家を出ていきました。老親の介護は、当初、Y子さんに任せられると安心していたKさんでしたが、すぐにY子さんと両親の折り合いも悪くなり、Y子さんとも離婚。バツ2になってしまったKさんは、一人で老親の介護をすることに。やがて仕事との両立も難しくなり、介護離職をすることになってしまいました。

◆親が亡くなると遺産相続の場に意外な人が出てきた

ほどなくして、老親2人の介護は、Kさん自身の手に負えなくなり、老人ホームに入ってもらい、老親は二人とも穏やかに亡くなりました。お葬式に意外な人が姿を現します。悲しみに暮れるKさんを支えてくれたのはかつての妻だったY子さんでした。

そんなか、長男夫婦とKさんの間で遺産相続に関する話し合いが行われることに。Y子さんが、Kさんの遺産を巡って、長男夫婦との話し合いの窓口になると申し出てきました。心も体も疲れ切っていたKさんは、Y子さんを頼るようになります。しかし、長男夫婦は、すでに親族でもないY子さんとの話し合いを拒否。弁護士を立てて、遺産をめぐる相続トラブルが裁判沙汰へと発展。

自分の財産を赤の他人に贈与してしまった

裁判がはじまると「私は当事者じゃないから権限がない、このままだと不利になる」というY子さんに言われるがまま、Kさんは、自身の不動産の持分などを贈与してしまいます。また「長男夫婦はKさんが死ぬのを待っている。財産が全部あの長男夫婦にいってしまう」などと、言葉巧みに、長男夫婦との対立関係を深めていくようにあおるY子さん。「あなたは娘や元嫁からも相当恨まれてる、死んだって葬式に誰もこないよ」「あなたを守るために、私が後見人につく方法がある」と、申し出てきます。

不動産登記や財産の移転が済み、裁判が収束へ向かうとY子さんは、またKさんの元を去っていきました。

◆「助けてあげる」と近づいてきたY子さんの驚くべき正体

これは、あとからわかったことですが、Y子さん自身も再婚で、ほかの男性との間に子供がいたことがわかりました。更にKさんと離婚後、別の男性と再婚。詳細は不明ですが、その男性とは死別したそうです。

「助けてあげる」といって、弱り果てているKさんのもとへ舞い戻ってきたY子さんは、Kさん両親の遺産を何年も前から首を長くして待っていたかなり怪しい人物でした。

この10数年にも及ぶやりとりを、こうして簡潔に文字で起こすと、読者の皆様も「なんでそんなわかりやすい詐欺師みたいな女にひっかかるんだ?」と思うかもしれません。しかし、60代になって一人ぼっち、仕事も友達もいない孤独なKさんにとっては、天使のような存在に思えたことでしょう。

◆極貧のなか孤独で寂しい晩年を過ごすことに

持分通りに遺産相続の訴訟も終わり、気が付けば、財産のほとんどを失うことになってしまったKさん。争うことになってしまった長男夫婦とは絶縁状態となり、ほかの親族からも距離をおかれることに。

「何かあればいつでも力になる」などと甘い言葉をかけてきたY子さんとも音信がなくなり、極貧のなか寂しい晩年を過ごして人生を終えました。

もともとはいい人だった。けれど、人は変わる

もともとは親とも兄夫婦とも仲がよかったKさんがどうしてこのようになってしまったのでしょう?どの立場になってみるかで、この複雑な気持ちにさせられるエピソードでした。

◆普通の人にでも起こりうる相続トラブル

Kさんの兄の立場で考えれば、当初から怪しさ満点のY子さんが悪人に見えたでしょう。Kさんの兄嫁の立場からみれば、結婚離婚を繰り返したKさんが、信用できないと感じたことでしょう。Y子さんは、Kさんとの結婚生活がうまくいかなかった原因は、元嫁やKさんの娘だと考えていたようです。義理のKさん両親に対しても、他人には分からない恨みがあったのかもしれません。

最後に、夏目漱石の小説から、こんな一説をご紹介します。

「平生(へいぜい)はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしい。」

引用:夏目漱石の小説「こころ」より

ちょっとしたボタンの掛け違いが思わぬ遺恨を呼び、お金がからんで、更に人格まで変わってしまう。これは現代社会において、決してめずらしいケースではないのかもしれませんね。

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